投稿日:2016-09-21 Wed

スウェーデンは、イエテボリという町にある、3:e vaningen というダンスシアター・ギャラリーのメインホールに枯山水のインスタレーションをしました。
3:e vaningen というのは、なんと「3階」という意味だそうです。海からもそう遠くない運河のほとり。レンガの壁の重厚な印象のこの建物は、以前は醸造関係の工場だったらしい。なので、柱、床、壁は工場仕様。こんな室内空間だからこそ可能になった今回の石庭でした。

建物外観
施主は、このギャラリーのアートディレクターである Lars(ラーシュ)さんと、その妻でダンサー・振付師である Gun(グン) さん。石庭を渇望(!)したのはグンさんの方だったようです。ここ10年以上の夢だった―。このような日本の石庭をホールに作りたい、そこを舞台として踊りたい―。
今年の始めくらいからEメールで英語でやりとりを重ねていましたが、一度も会ったことのない人と、その「夢」実現のために文章でやりとりするのは困難を極めました。結局私の出発寸前まで内容的な部分についてかなり大まかな合意にしか至らず、「まあ、細かいことは到着してからねー!」と、腹をくくって関空へ。
イエテボリの空港で迎えてくれた二人と、空港から3:e vaningen の建物に到着するまでの車内で、まずはお互いの人間としての波長みたいなものをそれとなく確認するような会話。。。(笑 お、こいつ案外いけるんちゃう?!! みたいなフィーリングのチェックです。
この時点でなんとか合格点をもらったにようでございます。
そしてその翌日、「枯山水は自然の山水の景色から受けた印象を抽象化して表現する芸術なのだ!」という信念にもとづき、イエテボリ郊外の島嶼部にある二人の別荘へ連れて行ってもらいました。その別荘は、4軒しか家がない小島にありました。最後は彼らの小さなボートでたどり着くという静かな場所。
その島に滞在したのはたった3、4時間ですが、そこに至るまでの島々の景色やこの小島の岩場の景色に心底感銘。「よっしゃ、これでインスピレーションは得たぞ!!」という思いで 3:e vaningen に帰ってきました。


グンさんとラーシュさん、彼らの島で
ミュージシャンのクリストファー君とエンジニアのフィン君がこのプロジェクトを手伝ってくれることになりました。そして、なんとラーシュさんとグンさんのお二人は「ちょっとドイツで用事があるので1週間ほど出掛けるから、いない間、ここはすべて任したからね、じゃね!」と言って、いなくなってしまいました。えぇっ!それは構いませんが、もうそんなに信用してくれるん??
次は石探し。採石場に行って交渉です。これはすべてクリストファー君が段取りしてくれました。一つ目の採石場で見せられた石はいまひとつかなぁ、という印象。そこでもう一つの別の採石場へ。こっちのほうが面白い石が多そうだ。そこで、この採石場で使えそうな石を赤チョークでマークしていく。2時間半。だいたい数は揃ったか。。。そしてその次の日、クレーン車を段取りし、これらの石を取りに行く。クレーン車到着。ところが―。
どうやら石を選び出す場所を間違えたらしい。採石場の係員から「あっちの山から取るんだ!ここはダメだ!」と叱られ、せっかくマークした石がシャボン玉と化す。その「あっちの山」に行ってみたが、ぜんぜん面白い石がない。。。少し呆然として立ち尽くしてしまいました。どうしよう。。。
結局この採石場では、枯山水の主要な石の下にクッションとして土嚢袋に入れて使う砂と、その土嚢袋のマウンドを隠すために貼石する赤みを帯びたゲンコツ大の石(この地域で最も一般的な花崗岩)を2立米ほど調達することにしました。そして肝心の主要な石は、最初に行った採石場で調達することにしました。
最初の採石場でいちから石選び。なんとか使えそうな趣のある石が選べました。濃い灰色の花崗岩です。

この山から石を選び出した
石は3:e vaningen の外の駐車場で洗って、フォークの台車に載せ、3階までエレベーター(最大積載量1トン)で運び上げました。石は一番大きいものが3人の男でやっとこさ移動できるくらいの石。予め決めておいた主要な石組をもってくる位置に砂入りの土嚢袋をクッションとして敷いてマウンドをつくり、その上に石を据えました。ヴァイキングの末裔みたいな二人に石の持ち上げかたも伝授しながら―。
石組自体はあまり時間かからず(かけず)勢いで仕上げる。全部で21個の石を使いました。

そしてそのまわりに土嚢袋を隠すように、赤みのゲンコツ大の石を貼っていく。目地の隙間をできるだけ作らないように、あるところはまさに平たく貼り、あるところはコバを面として敷石のように敷き、また少し動きを出したいところはあえて鱗貼(ウロコ貼り)に近いようなやりかたで、というふうに多少変化をつけました。
枯山水の奥の角には板張りの小さな舞台を作りました。その周りには3:e vaningenの裏の運河で遊ぶ鴨たちにヒントを得た石組をしました。

Foto: Johannes Luchmun

Foto: Johannes Luchmun
最後は砂利。これはたいそう悩みました。日本で石庭でよく使うような白の強い御影の砂利を探したが見当たらない。いろいろ探した結果、いろんな色のつぶが混ざっていて全体としては遠目で灰色にみえるような砂利(ルンダ石とか呼んでいた)か、それこそ真っ白な大理石の砕石砂利しか近場の材料屋では見つからない。では、全体をグレー一色で被うか、あるいは大理石の砂利の真っ白で被うか。いろいろ検討した結果、両方を使うことに。ただその比率によって印象がかわってくるだろうから、さらに検討した結果、グレー(7):白(1)という比率に。室内だし、うるさくなるだろうから、あえて砂紋は入れない。砂利も駐車場ですべて洗って、3階まで搬入。砂利だけでも、重さは合計8トン超。

砂利入れに汗流してくれるクリストファー君(左)とフィン君(右)
使った石の重さの合計は、主石、赤石、砂利、合わせてたぶん15トンくらい。それにクッションの砂が1トン。120㎡の枠内にこれらを配分したので、平均すると130kg/㎡ほどの荷重です。ただ主石の石組は集中荷重を作るので、石組はできるだけ柱や壁に近いところにくるように、という工夫もしました。ちょっと構造力学的な配慮です!
9月10日がオープニングセレモニーでした。その2日前くらいに枯山水は完成しました。

オープニングセレモニーでのチェロとサックスの演奏
これから半年間、日本をテーマにした音楽、ダンス・舞踏、語り、などなど催されるとのこと。9月21日~23日は、ロボットダンサーの森弘一郎(Mori-J)さん、10月22日には能管奏者の野中久美子さん、12月7日~9日には私の友人のカルメン・オルソンさんなど、そのほか沢山の日本人・スウェーデン人のアーチストたちが来館、それぞれのパフォーマンスや演奏を披露されるそうです!
この枯山水ができたメインホールは、主にレセプションホールとして使われるそうですが、この枯山水を舞台に踊られるパフォーマーもなかにはいらっしゃるそうです。もちろんグンさんも!その一人。
大変貴重な経験をさせていただきました。このような機会を与えていただいたことに感謝します。
グンさんはオープニングセレモニーにイッセイ・ミヤケのドレスを着ていました。「これ、なかなか着る機会がないのよね!まさに今日でしょ!」と言って笑いかけてくれたときは、少しグッときました。

ps
地元新聞、イエテボリポストにも載りました!

STONE-HARD ART (HARD-ROCK CAFE' みたいな響き。。。)

INSTALLATION WITH 15 TONS OF STONES
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