投稿日:2017-07-30 Sun
モンツァ農業学校の講座の最中、生徒さんたちの間で自分の好きな木はなにか、という話題になりました。ブナの木が好きだとかクスノキが好きだとか、みんなで言い合っていましたが、「サチミネ先生、あなたの好きな木は?」と訊かれ、迷わず、アラカシです、と。でも、応え終わった後、はて、これは単に木として好きなのか、あるいは庭で剪定する対象として好きなのか、どうなのだろう?と疑問になりました。
たぶん、両方です。
上手い人の切ったアラカシの木を見るとほんとうに惚れ惚れするくらいいいな~と見入ってしまいますし、自然に育っているアラカシの大木を見ても、やはりいいな~と見入ってしまいます。
前にもこのブログで書きましたが、「樫に始まり樫に終わる」という師匠のコトバ(それがいつ誰によって最初に発せられたコトバなのかはしりません)はいつまでも耳の奥で響くコトバです。
得も言われぬ濃い緑、渋い幹肌、剪定の失敗を許してくれる素晴らしい萌芽力(笑)、のほほんとした春の落葉、落ち着くときには落ち着き、貫禄のある様。 鋸、鋏、手、とすべての剪定道具をバランスよく用いることのできる木。
派手さはなくて、存在感があるー。
そういえば、利休さんだって:
樫の葉の もみぢぬからに ちりつもる 奥山寺の 道のさびしさ
この一首(鎌倉時代の僧、慈円によって詠まれたもの)によって露地の境地を心得よと申された、といいます。この樫の木とは、アラカシ?
庭という限られたスペースのなかで、いかにも自然でいかにも粋でいかにも上手に手なずけられた風のアラカシを維持していくか、それはかなりの醍醐味。

これはカッチカチだったアラカシを年々ほぐしていっている様子。つい先日の作業。
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投稿日:2017-07-01 Sat
今年のイタリア、モンツァ農業学校での授業を終えました。気温38度にまで上がった灼熱のなかでの庭仕事!生徒さんたち、よく頑張ってくれました。
第一週目が初級講座: 日本の庭における地形、石組、枯山水、掃除について
第二週目が上級講座: 茶庭~その意味、構成、構成要素について。作庭実習。
初級講座の山場は、「石のシンポジウム」でした。演習に使った土場にゴロゴロと山にして放ってあった石を、それぞれの表情を読みながらシンポジウムという形式で一体化し、結果としてなにか神聖な趣まで作り出すことができたことに生徒さんたちもびっくり、そして感動したようです。(最初は取り壊すつもりでやったエクササイズでしたが、あまりにもよくできたので、上級コースで毎年徐々に作り上げていくことになっている「モンツァ農業学校の日本庭園」の一部として残すことに決定!)



初級講座では、もうひとつ、3.8m角の小さな庭が3つ繋がった敷地に、山の景色、平野の景色、海岸の景色、という3連の枯山水を作りました。3つの小庭を仕切るようにして橋が架かっていたのもそのまま利用。

山の枯山水 普通滝口となる部分はスイスの山上湖!

平野の枯山水 龍ではなくヤモリのような造形になった!
上級講座では、茶庭についてかなり詳しく勉強しました。茶の背景にある思想、茶庭の使い方、構成要素の意味と配置の仕方(飛石、延段、蹲など)、そして茶庭の植栽など。
上に書きましたが、「モンツァ農業学校の日本庭園」をこれから毎年上級のコースで作り上げていくことになりました。今回はその出だしです。そこでまず、生徒さん個々人に庭のマスタープランを考えてもらい、図面化。そのあと皆で議論してひとつのまとまった方向性を得るまでに至りました。そして今回は
― 「石のシンポジウム」の周りの地形と植栽のあしらい
― 蹲の設置
― 枯流れ(滝口石組~中流の石橋まで)
を施工しました。
今後、この庭は毎年徐々に手を加えられてよりいっそう庭らしくなっていくでしょう。



2週間の講座、最近ほとんど日常生活で使うことのないイタリア語で講義をするのはやはり疲れますが、理論3割、実践7割くらいなので、なんとか頭が爆発しないで済んでいる(?)というところでしょうか。
イタリアの生徒さんはとても真摯で熱心。それはほんとうに打たれるものがあります。しかも今回はスイス人、フランス人の参加者もいました。皆、好奇心と向上心で満ちています。
去年初級コースを受講して、今年上級コースを続けて受講してくれた生徒さんたちが、去年の授業を受けたあとに自分で作ったという庭の写真をいろいろ見せてくれました。彼らは日々の作庭の仕事において、いわゆる日本庭園をつくるわけではないけれど、この講座で学んだこと(例えば石組など)を確実にそれぞれ活かしてくれているのがよくわかります。うれしいです。
私たち日本人も、私たち自身のすばらしい庭文化と庭づくりの技術をもう一度見直して、若い人たちにきちんとそれを知らしめ、後世に伝えていく必要があると、このような機会を通してあらためて実感します。
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