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  S A C H I M I N E

Author:  S A C H I M I N E
世界の庭を見渡して考えたい―ほんとうにいい庭ってどんな庭?お客さまのよりよい暮らしに貢献する庭づくりをめざして、日本とイタリアの長~い歴史と深~い文化と豊か~な自然をインスピレーションの泉とします!。。。でも現実は暑さ寒さ虫と戦う植木屋の毎日でございます― (っ^-^)っ゙
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カステル・ヴェッキオ ~ ヴェローナ
ベルガモの仕事の現場からインターシティ(IC)でヴェローナへ向かった。ベルガモからヴェローナへは110キロほどの距離で、インターシティの列車で割合のんびりした2時間の旅だ。途中ブレシャの町を通る。ポー川流れるピアヌラ大平野の北端をアルプスの足元にそって南東に一直線に走るのだ。左手にアルプスの南端の青い山並みを真近に見て進む。ガルダ湖を超えるとヴェローナに到着する。駅は郊外に設けられているため、駅から一歩足を踏み出すとすぐ前に広がるアスファルトのバス乗り場とロータリーを最初に目にすることになり、ロミオとジュリエットともカステル・ヴェッキオとも無関係な風景に出くわす。ランドスケープデザインがなによりも関係を作り出すデザインであるとするなら、こういうところにこそ知覚にも感性にも刺激的な場所の関係を作り出してほしい。ヴェローナを訪れる多くの人の最初の一歩はここから始まるのだから。ここが都市の物語の第一幕なのだから。旧市街へはどういったらいいかも分からない。関係と方向性を失った振付(コレオグラフィー)のなされていない都市景観。旧市街地ヴェローナの都市景観の評判と観光客の期待が高いだけに、それが一層残念に思われる―。


駅の売店のおばさんにチェントロへの行きかたをたずねた。真直ぐいけと言う。仕方がないので真直ぐ行くことができそうな道を真直ぐ行くことにした。運河を渡りやっと街らしき混み具合になってきた。さらに道ですれ違う二三人にチェントロへの行き方を聞いて、やっとそれらしき場所へ辿り着いた。イル・ブラ広場のちょうど裏側までやってきたのだ。ここまでくると道も石畳に変わりローマ時代の臭いがしてきそうだ。すぐカステル・ヴェッキオをめざした。

城壁が美しい。木の重厚な橋をつたって堀を渡り門をくぐると、芝の中庭広場が現れた。手前に二列の灌木の垣根が中庭の長手に平行に走っている。その右手奥にカルロ・スカルパがデザインした美術館への入り口へ続く歩道、そして一連の噴水が見える。この地方原産のブルン(Prun)という赤みを帯びたクリーム色の石を随所に使っている。歩道と水盤の関係は、水面を渡る歩道という感じのイメージを与える。水平を強調しているのはヴェネチアの水と地盤との関係を暗示するものだろうか。突き当たりの入り口右側にはプルンのモザイクを埋め込んだ礼拝堂の外壁が見える。もともとの入り口は中庭に面した正面ファサードの中央部だったのだが、スカルパは対称を意図的に壊し、ファサードの右手奥のアーチを美術館の入り口に設えた。そして、そこにいたるまでの歩行空間をドラマチックに演出したのだ。2つの噴水を歩道の両側に配し、それぞれの水の高さ、噴水の形態を変えている。そして、歩道の目地も移動軸に対し垂直な線を強調することにより、より長く、ゆっくりした儀式的導入を振り付けしている。

美術館に入った。コンクリートの梁が天井に視覚的には水平な、しかし力学的には垂直の緊張感を与えている。あいにくこの美術館を象徴するスカルパの代表作である左手の彫刻展示場は修復中で閉鎖されてしまっている。非常に残念だ。チケットを買って、段を上って2階展示場へ足を進めた。階段の踊り場に設けられた格子の扉、そして突き当たりの格子の仕切りが、外光の全体のヴォリュームを強調し、かつこの古い城に彷徨う光を適度に分節している。2階の展示場の右手の壁は、外を流れるアディージェ川と平行して走り、壁に穿たれた古い城の切窓から銀色の川面が覗かれる。川の流れの無常と恒久なる城の壁の重厚さ―島崎藤村の「小諸なる古城のほとり」ではないが、これは詩になる風景であり、建築とランドスケープとの融合がこんなところにも垣間見られるのだ。左手のこの壁がアンドゥレーションをなして展開するさまは、絶妙に川の流れと呼応―すなわち、共に息を―している。カルロ・スカルパはこの城の修復にあたって建築の内と外というテーマについていろいろな試みをしたという。美術館の入り口左手に見た例の礼拝堂の張り出しもその一つだ。内にむかっては奥深く包含する空間を作り、外に向かっては全体の構成に対して変化と面白みを与え、かつ部分の持つ個性を表現させるようななにか、それを彼は内と外というテーマの中で模索したのではないかと思う。

美術館内部でさらに目を惹くのはスカルパがデザインした絵画用の展示脚(展示台)だ。断面が長方形の焦茶の鋳鉄でできたフレームで組まれており、美術館内装の重要な要素として落ち着きある空間を演出している。たまたま、地上階の彫刻展示場が修理工事で閉鎖されていたこともあり、鑑賞の順路は普段と異なっているようだ。2階の展示場の突き当たりは大きな窓ガラスになっており、そこからカングランデの騎馬姿の彫刻が見られる。ここは、城の二つの棟の連結点だ。突き当たりの大きなドアを出て渡り廊下をわたる。カングランデの像は左手に斜めに、空中に突き出ている。静の中に動を醸し出す手法をみる。渡り廊下の手摺は鋳物鉄と木を組み合わせた手摺となっており、渡り廊下の空間が一つの独立した建築空間として味を持つ。右手に折れて急な階段がある。踏み面が全体の幅の半分になっており、交互に左右の足でそれぞれの踏み面を伝って上り下りする階段だ。コンクリート打ちっぱなしの荒ぶれたテクスチャーがここでは支配的で、外部空間であるということを示唆するのだ。この階段をのぼると川を左手下に見ながら川と平行に走る外部回廊にでる。ここからの眺めはまたすばらしい。眼下にアディージェ川の銀の更紗が流れ、右手に石の歩道橋が対岸に渡るのが見える。はるかかなたには連峰が淡く青い。ここにくると北の町の洗練が白色を帯びた大気と石と木の材質により象徴され、アルプスへの至近が豊富な水と地平線を盛り上げる稜線によって象徴される。

美術館を一通り巡回すると、空間の分岐点、分節点のオンパレードとなる。それらは壁の厚さ、材質の変化、光の導入のされ方、軸線の変化などによって表される。様々な分岐点において、外―ランドスケープの様々な事象、ヴェローナの町の構造、そして場所の歴史―に向かってなんらかの関係を築き、我々の注意を呼び起こさせる建築家の腕に私は大きく唸るばかりだった。美術館をあとにして、私は建築(ランドスケープデザインを含む)ができることの可能性に対し、大きな励ましの言葉をもらったように感じた。この建築家の静かでユーモアに満ち、透徹したデザインへの挑戦が、ひしひしと伝わってきた。

カステル・ヴェッキオを堪能した夜、ヴェローナで私を印象付けたのはイル・ブラ広場の夜景だった。アリーナ(円形劇場)の隣に位置するこの広場は最近再整備が行われたことが明らかにみてとれるほどに小奇麗だ。中央にモミの木などの成熟した高木を何本も植え、芝生広場を添え、舗装された幅の広い通路部にはたくさんのベンチを配置し、真ん中には巨大でしかもエレガントな丸い噴水が豊かに水を噴出している。その向こうに、メリー・ゴーランドが赤や黄色や橙色の暖かい色を発光しながら回転している。人があちこちで腰掛けるベンチの周りには、晩御飯を終えた家族やこれから晩御飯へ向かうであろうカップルで人の体温の和が感じられる。さらに広場の外周を規定している連続した建物ファサードのカーブに従うようにしてクリスマス前の市が立ち、色華やかな小物、衣服、おもちゃ、お菓子が裸電球に照らされて遊戯し、そこを楽しそうに歩いて見て回る人々は幸せの笑みで満ち、それらすべてによって広場の体温はより一層温かく保たれている。都市の冬の理想的な情景とはこんなものなのだろうか。
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| 22:51:19 | Trackback(0) | Comments(0)
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