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  S A C H I M I N E

Author:  S A C H I M I N E
世界の庭を見渡して考えたい―ほんとうにいい庭ってどんな庭?お客さまのよりよい暮らしに貢献する庭づくりをめざして、日本とイタリアの長~い歴史と深~い文化と豊か~な自然をインスピレーションの泉とします!。。。でも現実は暑さ寒さ虫と戦う植木屋の毎日でございます― (っ^-^)っ゙
ホームページはこちら:www.sachimine.com

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パンフィリ公園の素晴らしさ
ローマのパンフィリ公園が何故すばらしいのか、それを考えてみた。まず何よりもパンフィリ公園の中では物語が絶えず生まれているように私には見える。パンフィリ公園には何度訪れても飽きることがない。その秘密は何か?その秘密は大きく分けて次の三つにあると思う。第一の秘密は人にある。第二の秘密は公園のスケールにある。第三の秘密は内に秘められたランドスケープの多様性にある、と―。

第一の秘密。パンフィリ公園は一年中人に使われる。人影の絶えることが珍しい。夏の猛暑の昼下がりでも独りで木陰で瞑想にふける女がいる。大雨の中でも傘を共にして雨煙の景色を堪能する老いた二人組がいる。そういう極端な状況でさえ公園から完全に人が消えることはめずらしい。人あっての公園なのだ。


人は来たいときそれぞれの目的をもって訪れ、公園という空間と日常の或る時間をここですごした後、去っていく。お互いを干渉するのでもなく、無視するのでもない。プライヴェートとパブリックのちょうどバランスのとれた社会空間を形成している。だからここでは安心するのだ。人に心地よく見られ、人を心地よく見る。人の話し声、笑い声を心地よい音圧レベルで耳にし、自分も他人を気にすることなく自然の音量で友や愛する人と話ができる。

私の観察では、パンフィリ公園を使う人には大まかに分けて五種類の人がいる。デートする人。スポーツをする人。家族の時間を過ごす人。友人との時間を過ごす人。独りの時間を過ごす人。この五種類はイタリア人の日常生活における価値観の縮図でもある。つまり、恋、からだ、家族、友人、孤独。公園もまたイタリア社会を象徴するものだといえるのだ。以下私の観察に基づいてその五種類の姿を簡単に整理する―。

1 恋のためにパンフィリ公園を利用する人はこのように使う。遊歩道を二人で散歩する。草に敷物を敷いて(あるいは敷かないで)重なり合う。

2 スポーツ、つまり体の健康のためにパンフィリ公園を利用する人は以下のように使う。ジョギングする。何箇所かに置かれた鉄棒で筋肉を練磨し、その傍らで幾種類もの筋肉トレーニングをする。自転車で走る。早足で歩く。広場でサッカーをする。広場でフリスビーをする。太極拳や少林寺拳法を稽古する。

3 家族の時間を過ごす人は以下のようにする。草むらに敷物を敷いて、家族でピクニックをする。広場で家族みんなで玉遊びをする。乳母車やベビーカーを押して夫婦で散歩する。老人(老夫婦)が孫の子守をしながら散歩する。

4 友人との時間を過ごす人は以下のようだ。友人と会話しながらゆっくりと散歩する。友人とジョギングする。サッカーをする。草の上に敷物をしいて(あるいは敷かないで)輪になって数人でたむろする(これは特に10代の若者に多い)。友人とベンチに座って行きかう人を見て寛ぐ(これは特に老人に多い)。

5 孤独を満喫する人は以下のようだ。ベンチに座って、あるいは草の上に敷いた敷物に寝そべって新聞、雑誌、本を読む。独りで黙々とジョギングする。独りで自転車を走らせる。ストレッチや武術の稽古をする。敷物を敷いて寝そべって日向ぼっこをする。犬の散歩をする(家族との時間であるともいえる)。

さて、ここにきて私はヴィラ・パンフィリ公園の社会文化的意義の根底に流れるものが「愛」であると、少し大胆であるが、そう確信した。公園を何のために、そしてどのような目的で利用するかと観察し考えれば、恋、からだ、家族、友人、孤独というキーワードが得られるのだ。これらはイタリア人(ローマ人)にとっては「愛」(アモーレ)の現れである。最初の「恋」は説明を省く。からだへの気遣いも彼らにとっては自己への忠実な愛の表現である。家族、友人を大切にするのも彼らにとって最も大事な愛の形態。そして孤独。これは瞑想と言い換えてもいいし、自分の精神への愛であるといってもいい。パンフィリ公園を利用する孤独な人々の顔には孤独ということばがあたかも精神病への前奏曲であると決められているアングロ・サクソン的(とりわけアメリカ的)陰鬱さが無い。それは自分を沈思し、自分らしさを愛する者の日常的な誇りと安らぎの表情だ。ローマの人たちにとっては、公園というのは何よりもまず、愛に満たされた場所、愛を確認しあう場所、愛を行う場所なのだ。二羽のガチョウの寸話も説明が付くというものだろう。ゆえに、パンフィリ公園を流れる空気はいつも穏やかで、和があり、温かい人気(じんき)に満ちている。

第二の秘密は公園の大きさにある、と私は見る。パンフィリ公園は約180haの平面を持つ、ローマ都心最大の公園だ。その表面のほとんどすべてが地中海性気候の森林、松林、野原で覆われている。都市の中にある自然公園である。東京の新宿御苑公園(58.3ha)やニューヨークのセントラルパーク(341ha)と比べられる。公園はレオーネ13世通りによって東西に分断されており、東側の所謂白いヴィッラ・パンフィリ(パンフィリ荘)が建つ部分が公園の核だ。この東側の公園部分には、ローマのトラステヴェレの街からモンテヴェルデとジャニコロという二つの丘の間をぬけるようにしてサン・パンクラツィオの門に達し、この門を超えて有名なアウレリア街道に入る地点から入園する。他にもいくつかの入り口があるが、ここが一応表構えであろう。そこから公園に入ると、常緑樹の森が早くも右に左に展開し始めるのを感じる。門を潜って公園に入ると草地がなだらかに下がる中、遊歩道がさっそく我等の足を奥へ奥へ誘っていく。一時間半も歩くならば、この東側の公園部分のほぼすべてを散策することができるだろう。この一時間半の散策こそ、この公園の最大の魅力だ。途中パンフィリ荘の白く美しい館とその足元のテラスのほぼ全面を覆う壮大な刈り込み迷路を見てはっとするのであるが。ひとたび公園に入れば、草原の丘と林と空、その三つの大胆な構成要素でこの公園のほとんどが形成されていると分かるはずだ。この懐の深さ、些細な音を吸い込んでしまう公園のスケールに皆あこがれてここで時間を過ごすのだろう。

第三の秘密は内に秘められたランドスケープの多様性にある。幾重にも展開するなだらかな草地、それを取り巻く深い林、丘状の地形をくったくなくたどってみせる遊歩道、アウレリア街道の側壁、広大なサッカーの原、薄暗い樫の杜、明るい楡の杜、大きな噴水、大池、マロニエのプロムナード、グリッドの松林(武術を稽古するもののお気に入りの場所のひとつであり、私も太極拳をここで稽古する)、大きくなだらかな草原の丘、ヒマラヤスギが植わる丘の天辺、春に梨の白の花咲く草原の谷、豪快な傘松の遊歩道、なだらかな丘の地平越にもくもくと湧いたように群集するモンテヴェルデの街、子供のための遊戯場、そして私が「愛の草原」と勝手に呼んでいる草原(周囲を林に囲まれた―よって林に心地よく隠された―なだらかに傾斜した草地で、前述の「恋のためにパンフィリ公園を利用する人」として「草に敷物を敷いて(あるいは敷かないで)重なり合う」と書いた範疇に入る老若男女をしょっちゅう目撃するからそう命名した)。西側の公園にまで足を伸ばせば、さらに多様なランドスケープが内包されるのを見る。例えば、紅葉スモモ[Prunus cerasifera]の並木、ロックガーデン、滝と池、ソメイヨシノの植わる芝生広場、薔薇の長いパーゴラ、などなど。こうして、名前の付く(つまりイメージが湧きやすい)ランドスケープのまとまりが公園を散策すると次から次へを展開するのだ。しかもそれらは明確な境界を持たないで次から次へとどんどん展開するから、散策を続けるとあたかも一連の映画のシーンを見るようだ。これは桂離宮式回遊庭園の愉しみを思い出させる。桂離宮でも名前の付くランドスケープのイメージが次から次へと方角を変えスケールを変えながら展開するのであるが、そしてそのために我々はこの庭園を堪能させられるのであるが、パンフィリ公園においても同様である。パンフィリ公園には確かに桂離宮ほどのディテールの詰めはない。しかし、ディテールへの詰めがないことによってパンフィリ公園のランドスケープの総体としての価値が落ちると感じることはない。公園としての社会的機能をしっかり果たしているのはもちろん、そのスペースが使われるスピードと用途に的確に応じたランドスケープのデザインがなされている。世に回遊式庭園とは言っても回遊式公園とは言わないが、パンフィリ公園こそ回遊式公園の良い例だといえるだろう。

パンフィリ公園の歴史は、1630年10月23日にパンフィリオ・パンフィリ公という貴族が、もともと葡萄畑を中心とした農地兼林地だったいまのパンフィリ公園にあたる土地の一部を買収したことに発する。1644年、同じパンフィリ家から、カーディナル(枢機卿)であったジョヴァンニ=バッティスタ・パンフィリが教皇インノチェンツォ10世として即位。それに因んで近隣地の買収が進み、同時に別荘とそれに付随する大庭園が敷かれ、さらに大きく敷地を利用した娯楽施設(野外劇場、噴水、池、グロットなど)が造られた。登用されたのはアルガルディという建築家・彫刻家である。1857年まで敷地の買収と拡大は続く。別荘にはヨーロッパ中から貴族が招かれ音楽、舞台を伴った盛大な宴が催された。そして庭園で遊び、野原を馬で駆け回り、林地では猟をも楽しんだ。アルガルディ設計の別荘の内装、庭の彫刻や噴水は贅を極め、訪れる賓客、芸術家の目を堪能させた。公園がローマ市の公共公園となったのはわずか30年前、1971年のことである。

現在でも当時の面影を残す構造物としては、「深呼吸の館」(Il Casino del Bel Respiro)と名の付く別荘の建物、別荘裏手に広がる大きな刈り込み迷路のある「秘密の園」(Il Giardino segreto 何が秘密かと言えば、刈り込みの中で秘密の遊びでもするのであろう!)、秘密の園からさらに一段下った地盤に設計された劇場庭園(Il Giardino del Teatro )、そして「見晴らしの池」(Il Lago del Belvedere)がある。別荘の館の外観は建築完成当初の意匠を修復継承しているものと想像できる。秘密の園は部分的に改変され(両端にあった池が片方なくなるなど)、劇場庭園から見晴らしの池にかけての庭園に関しては建築当初の大部分が失われてしまっているという。全盛期は古代ローマ時代の水道を修復して再利用した大規模で変化に富んだ水の演出が多数設けられていたらしい。これも今ではいくつかの割合平凡な噴水が点在しているのみである。別荘の館と秘密の園の関係はシンプルながらよく考えられている。つまり、館の正面の地盤は裏の秘密の園の地盤より一階高分高くなっている。正面玄関は建物2階からアクセスするのだ。要するに館はレベル差のあるテラス地盤にはまった形をとっており、それがまた劇的効果を出している。館の2、3階部分からは下に秘密の園を見下ろすという形をとり、そのデザイン意図がはっきりしている。これは秘密の遊びに使う庭であると同時に、館内部から見下ろすべき庭なのだ。秘密の園の壮大なスケールとその緻密なデザインは周りの公園の野趣とある種のバランスをとっていて美しい。秘密の園から劇場庭園へ地盤が更にひとつ下がるが、この擁壁に埋め込まれた形でグロットが穿たれ、今では頭が破損してなくなった彫刻群がいくつか添えられている。擁壁の上には、大鉢のレモンが置かれ、擁壁の下にもかんきつ類が植えられて、ルネッサンス期のトスカーナの庭園を髣髴させるものがある。心地よい設えだ。翻って、劇場庭園は空間構成がはっきりせず、それほどの特徴と美は感じられない。秘密の庭の擁壁を背にすると右手の地盤が10m程高くあり(館の正面の地盤)、この地盤差を利用して大きな半円形の擁壁が意匠として設けられているのが唯一の特徴だ。

パンフィリ公園の真面目はその大公園としての緑の公共空間、その寛容な社会的機能にあるといえるだろう。
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公園 | 18:51:20 | Trackback(1) | Comments(3)
コメント
こんにちは
はじめまして。Italia★Zanmai というサイトを運営しているローマ在住のフォルミカ 理香と申します。パンフィリ公園の記事を書くために色々とリサーチしていてたどり着きました。専門家の視線で描かれた公園の記事、とても面白かったです。近くに住んでいるんですが、こんな風な目線で散歩をしたことがなかったので、私もゆっくり散歩がしてみたくなりました。とても貴重な視点をありがとうございました!

S A C H I M I N Eさんの記事をサイトで紹介させていただきましたので報告させて頂きます。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
2014-02-01 土 02:47:31 | URL | フォルミカ 理香 [編集]
Re: こんにちは
フォルミカ 理香 さん
こんにちは。とてもうれしいコメントでした。また紹介していただいて、ありがとうございます。ジャニコロの丘に住んだこともあるし、友達もけっこういて、よくパンフィリ公園にはいったものです。いまでもローマに行くときは行ってしまいます!
ほかの記事もお時間あるときに読んでみてくだいね。
私はいま奈良で植木屋・ガーデンデザイナーしてます。こちらこそ、これからもよろしくお願いします。
フォルミカ 理香さんのサイトにも、リンクをはってよろしいですか?

2014-02-01 土 21:50:17 | URL |   S A C H I M I N E [編集]
返事が遅れてすみません
こんにちは。フォルミカです。お返事を頂いていたにもかかわらず、ご連絡が遅くなってしまい申し訳ありません...。ノーティスのメールがなかったのでたった今コメントのお返事に目を通させていただきました。

もちろん、私のサイトで良ければリンクしていただければ光栄です^_^ 他の記事もこれから目を通させていただきますね!それでは今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
2014-09-17 水 07:25:58 | URL | フォルミカ 理香 [編集]
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